【第七回】 ゼータ電位の測り方-レーザー・ドップラー方式電気泳動法-

「分散安定性」の支配因子のひとつに静電的斥力があり、DLVO理論をもとにゼータ電位の値から安定性を推測することができる。

その意味から、ゼータ電位測定は分散安定性の間接的評価法として位置づけられている。

「分散」と言うと「ゼータ電位を評価すれば良い」という判断をされる方が多いのだが、実際には、ゼータ電位以外にも「分散安定性」を評価する方法がある(本コラム【その1】参照)ので注意して頂きたい。

 

最も普及しているゼータ電位測定法は電気泳動法で、

その中でも、レーザー・ドップラー方式電気泳動法が最も良く用いられているので、今回はこの手法についてもう少し詳しく紹介しよう。

 

この手法は、電場下にある粒子の散乱光を測定し、そのドップラー周波数シフトから電気泳動移動度を算出するもので、正式には「電気泳動光散乱法(ELS: Electrophoretic Light Scattering)」と呼ばれている。

一般に、「ドップラー効果」とは、光や音波が運動している物体に当たり反射あるいは散乱すると、散乱光の振動数が物体の速度に比例して変化するという効果であるが、懸濁液に電場を印加すると粒子が泳動し、その泳動速度から電気泳動移動度*が評価され、ゼータ電位に変換される。

 

電場下の液中に分散した粒子に位相の揃った光を入射すると、電荷を持った粒子は、その電荷の符号に応じて陽極または陰極のいずれか方向に移動する。また、この粒子の移動速度は電荷量に依存するので粒子からの散乱光周波数のシフト量も同様に変化する。したがって、シフトした周波数分布から、粒子の電気泳動移動度の分布が決められる。

 

ELS法は、較正用標準粒子を必要とせず、水系または非水系いずれかの媒体中に懸濁したサンプル粒子の電気泳動を迅速にしかも自動的に高い再現性で測定することができる利点を有している。

そのため、現在、多くのメーカーから装置が販売されている。

ただし、注意点として、粒子1個が識別できる、あるいは懸濁液サンプルを光が透過するという条件を満たしている場合しか測定することができないので、粒子濃度が高いサンプルの場合には希釈して測定に供する必要がある。

 

サンプルを希釈する際に系のイオン濃度などが変わってしまうと、ゼータ電位にも大きな影響を与えてしまい、実際のサンプルとは異なる測定結果が得られてしまうので(下図参照:溶媒で希釈すると粒子濃度と共にイオン濃度も下がるので、電気二重層厚さ[1/κ]が大きくなるのでゼータ電位の値が変わるだけでなく、κaの値も変化する)、注意深くサンプル調製を行なう必要がある。

 

希釈方法としては、懸濁液を遠心分離し、その上澄み液を用いて希釈することをお勧めする。

*電気泳動移動度:電場強度あたりの電気泳動速度。単位はm2/[V・s]

 ちなみに、電気泳動速度は、電気泳動中の粒子速度で単位はm/s。

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