【第六回】 分散安定性とゼータ電位
「分散安定性」の定義は、「分散状態が時間の経過とともに変化しないこと、あるいは変化に対する抵抗が大きい様子」とされている(ISO TR-13097)。
さらに、「分散安定性」の支配因子のひとつに、DLVO理論の中の静電的斥力がある。
この斥力は、粒子同士が近づき粒子間距離が短くなると(拡散)電気二重層が重なり、重畳部分は溶液バルク相のイオン濃度よりも対(たい)イオン濃度が高くなり過剰浸透圧が働き、これが静電的斥力の源となっている。
今回は、この斥力の見積もり方を紹介しよう。
まず、このコラムの【第三回】で紹介した粒子間ポテンシャル曲線の復習から始める。
上図のポテンシャル曲線の中で電気二重層斥力をご覧頂きたい。
この力は、粒子表面から少し離れた位置(引力が働く距離よりも少し遠い位置で働くときに威力を発揮する)で働くのであるが、この表面からの隔たりが電気二重層厚さ(通常、1/κで表す)に関係し、この斥力ポテンシャルの高さがゼータ電位に関係する。
したがって、一般的にはゼータ電位を測定してその値を評価することが、取りも直さず、斥力の強さを評価しているとして「ゼータ電位の大きさ=分散安定性」として理解されている。
コラムの【第四回】でも述べたように、斥力の源は高分子による立体障害効果もあるので、ゼータ電位だけが分散安定性の指標とは断定できないのであるが、Schulze-Hardy(シュルツ・ハーディ)の法則に見られるように、電位の値から分散安定性を論理的にきちんと説明できるので、とくに研究者に好まれて使われている。
(現場のプロセスに携わっておられる方の中には、ゼータ電位の傾向と目のあたりにする分散現象の間に不一致があることからゼータ電位を指標として用いることに抵抗を感じる方も多くおられる)
ゼータ電位は、25mVが1kTに相当するので、一般的には、この「25mV」以上あるときに分散性が良いと判断されている。(この根拠については、今後、このコラムで取り上げる)
ゼータ電位の測定法は種々あり、測定装置も複数社から市販されているので、現在では容易にゼータ電位を求めることができ、斥力ポテンシャルの大きさの程度を知ることができる。
最も普及しているゼータ電位測定法は、レーザー・ドップラー方式電気泳動法で、光を透過する程度に希釈した懸濁液中の粒子の電気泳動移動度を自動で測定して、附属のソフトでゼータ電位に換算してくれる優れものである。
ただし、希釈操作は原液のイオン濃度を下げてしまうので、できるだけ変化を与えないようにするために遠心分離などで上澄み液を作り、その液で希釈するとよい。
あまり普及していないが、原液の濃厚系のままゼータ電位が測定できる「超音波法」や「ESA法」による装置も市販されているので、そのままで測定されたい場合には、これら方法をお勧めする。
ゼータ電位法の詳細やゼータ電位活用法など、まだまだ紹介したい事柄もあるので、しばらくはゼータ電位関連の話題を今後提供させて頂くことにする。